東京地方裁判所 昭和43年(ワ)10739号 判決
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〔編注〕 一、の点については、東京地裁昭四四・一一・五中間判決(本誌二四〇・一二八)、東京地裁昭四五・一・二一判決(本誌二四三・一二六)、名古屋地裁昭四五・一・三〇判決(本誌二四三・一三八)、西島・下森・霜島「交通事故被害者の保険会社に対する代位訴訟」(本誌二四七・二八)を参照されたい。
〔判決理由〕 〔判示事項二〕被告関根が被告東ユの代表取締役であることは当事者間に争いがないが、法人の代表取締役は、現実に被用者の選任、監督を担当ししいたときに限り、当該被用者の行為について民法七一五条二項の責任を負うのであつて、代表取締役であることそれ自体によつて当然に右の責任を負うものではないものであるところ、原告は被告関根が現実に被告宮山の選任・監督を担当していたことについて立証をしていないから、被告関根に対する請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。
〔判示事項三〕付添費 六万〇五〇〇円
原告は、前記のとおり、昭和四二年一一月二〇日から昭和四三年二月二五日まで東京女子医大病院に入院したのであり、証人田中美代志の証言によれば、原告が入院中昭和四三年一月一五日までは原告の実姉である田中美代志および田中富美子が交替で付添つたが、それ以後退院までは家政婦が付添つたことが認められる。
そして、家族の付添の場合には、家政婦の賃金および家族労働の特殊性に鑑み、その労働の価値は一日当り一一〇〇円と評価するのが相当であり、したがつて、家族の付添つた五五日間の付添費は六万〇五〇〇円となる。なお、一日一五〇〇円の割合で被告東ユが負担することを同被告が原告に約束したことは本件全証拠によつても認められない。
〔判示事項一〕被告大東京に対する請求
一、(保険金請求権の代位行使について)
(二) 責任関係と保険関係との実質的牽連性
責任保険においては、被害者と加害者(直接の加害者の外に使用者、運行供用者等を含む)との間の関係(以下責任関係と略称)と加害者たる被保険者と保険者との間の関係(以下保険関係と略称)との二段構えの関係があり、責任関係において定められる賠償責任額が保険関係における保険金支払額の基準となる関係にある。
しかも、責任関係における賠償責任額は、損害賠償債権の特殊性から、実際上は、示談で確定されるにせよ、裁判手続によつて確定されるにせよ、確定手続を経て初め、事故時に発生した抽象的賠償責任が具体化するのである。
(二) 賠償額の確定と保険金請求権
昭和四〇年八月以降損害保険各社共通に使用されている現行の自動車保険対人賠償責任保険約款(以下任意保険約款と略称)は、保険金請求権行使の前提要件について特に規定を設けていないが、次の理由により責任関係における賠償額の確定が保険金請求権行使の前提要件であると解すべきである。
すなわち、(1)昭和二二年来の旧統一約款の下では先履行主義がとられていたのであるが、責任の履行を要件とすることは加害者が無資力の場合被害者の保護に欠けることになるため、現行の任意保険約款はこの先履行の要件を廃止したに止まり、賠償額の確定の要件までも不要としてその前段階―被害者が加害者たる被保険者に対して損害賠償請求をしたこと、あるいは保険事故の原因たるべき自動車事故が発生したこと―で保険金請求権行使の要件が充足されたとする趣旨ではない。
(2) もし、人身事故の発生と同時に保険金請求権を行使し得るものとすると、この請求権は商法六六三条により事故後二年で短期時効で消滅することとなる。このような帰結は、賠償額弁済時を起算点としていたこと、自賠法も一五条による被保険者の保険金請求権の時効は被害者への支払時を起算点とするのに対し、同法一六条の直接請求権は事故時を起算点としていることとの権衡を失することになる。
(3) 更に、責任関係における確定をまたずに人身事故の発生と同時に保険金請求権が行使可能となつていると解すると、被害者以外の債権者も人身事故を知れば直ちに保険金請求権を代位行使し得ることになり、被害者にとつて不利な、責任保険の性格上も歓迎し難い事態を招き易い。
(三) 責任関係における賠償額確定の保険関係における意義
以上の理由により、責任関係における賠償額の確定は保険金請求権行使の要件である、と解すべきである。ところで、その要件としての意義は、請求権発生の要件でもなく、履行期到来の要件でもない、と解すべきである。けだし、保険関係の責任が現行の任意保険約款第二章第一条のような文言を通じて責任関係における責任の存否に依存している以上、保険関係における責任も抽象的には自動車事故の発生と同時に発生するものと見ざるを得ず、責任関係における責任確定を以て保険関係における責任と解することはできず、また、保険関係における責任が不確定期限であつて、責任関係における責任確定と同時に履行期が到来するものと解することも適切ではない。
要するに、損害賠償責任の性質上、保険関係における請求権行使については、責任関係における確定が不文の前提とされているものと解すべききであり、それで十分である。
したがつて、責任関係における賠償責任額の確定なしに保険金請求の訴は原則として不適法として却下されるべきものである。
(四) 併合訴訟における「賠償責任額確定」の要件緩和
しかしながら、責任関係の訴訟と保険関係の訴訟とが併合されている場合には、右の「賠償責任額の確定」の要件は、緩和されて然るべきである。けだし、かかる併合訴訟の場合、示談もなく、確定判決もないのであるから前記説明によれば保険金請求権行使の要件は未だ具備されていないのであるが、両請求が併合訴訟において審理判決される限り二重の手間による無駄と判断が区々になることから生ずる混乱の可能性とはいずれもないからである。そして、併合訴訟において判決がなされた後の控訴申立も、賠償責任保険の本質ないし責任関係の判断の保険関係の判断に対する基準性に照し、責任関係が先に確定し保険関係のみが控訴審に係属することは差支えないが、逆に保険関係が先に確定して責任関係のみ控訴審に移ることは許されず、後者の場合には責任関係での控訴に伴い保険関係の判断も控訴審に係属するに至ると解すべきである。つまり、片面的必要的共同訴訟ということになる。
(五) 保険金請求権の履行期
被告大東京は、原告の同被告に対する訴が将来の給付の訴に属し民訴法二二六条の必要性を欠くと主張する。しかし、前記のように、責任関係における賠償責任確定は保険関係の履行期とみるべきではないし、権利行使の要件して併合訴訟による例外を認めるのであるから、本件のような併合訴訟においてはそもそも履行期の点で将来の給付の訴は成立しない。
けだし、被保険者が保険会社に対して有する保険金請求権の履行期は、保険関係より責任関係が先に確定する通常の場合は、示談成立ないし判決確定の後現行約款第三章第一五条の要件を充足したとき初めて到来するものと解すべきであるが、右約款の条項は、保険会社が責任関係における損害額具体化の手続過程に関与しない通常の事態を念頭において、保険会社に対し具体化した損害額の内容を検討し保険金支払の準備期間を与えるために設けられたものと解すべきであるから、保険会社が訴訟当事者として関与する併合訴訟の場合には、右条項の存在を考慮に入れる必要はなく、例外的に、裁判所による責任関係の判断が示されると同時に、すなわち判決言渡の日に、保険関係における履行期が到来し、その翌日から保険会社は履行遅滞の責を負うものと解すべきである。
(六) 無資力・権利不行使の要件について
通常の債権者代位訴訟においては、代位権の基礎たる債権とその容体たる債権とが無関係であるが、本件においては、責任関係における損害賠償請求権と保険関係における保険金請求権とは密接な関係にあり、保険者の支払う保険金はまさに被害者に対する損害賠償にあてられるべきもので、被害者は、いわば自己の特定債権を保全するためにその担保ともいうべき加害者の特定債権を代位行使するものであるから、加害者の責任財産の多少および加害者の権利不行使を問題とする必要はない、と解すべきである。
(七) 債権者代位訴訟の適法性
以上の理由により被告大東京に対する代位訴訟は適法である。
二、(保険契約)
被告東ユと被告大東京との間に原告主張の保険契約が締結されたことは当事者間に争いがない。
三、(責任関係)
前記認定のとおり、被告東ユは原告に対し請求の趣旨記載の損害賠償責任がある。
四、(保険金請求権)
よつて、被告大東京は、原告に対し、保険金の限度額内である八〇万五〇〇〇円およびこれに対する判決言渡の翌日である昭和四五年六月三〇日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。(篠田省二)